『散る桜 残る桜も 散る桜 』
 父の葬儀の直前。霊前で読み上げる弔文の練習をしている龍之介、そこへやってくる妹、未知。龍之介はもう8年も同棲している女と結婚に踏みきることができない。それにひきかえ、妹は出戻りらしい。そして、二人の育ったこの家はこれを機に人手に渡ってしまうという。

 『メトロポリス』というシリーズを始めるにあたり、話の内容はもちろんバラエティに富んでいなければなりませんが、作り方のバラエティもやはり必要です。大雑把に分けると、まず私が書くもの、それから役者達と話合って作るものの、ふた通りがあるのですが、ではどうやったら役者達との共同作業が可能なのか? ということも探っていかなければなりません。『メトロ』はいわゆるエチュードという方法を多用します。台本を用いずに、即興で続ける稽古、創作の方法です。エチュードはお話を作る部分でももちろん使いますが、キャラクターのイメージをはっきりさせるために、本編の物語とは関係のないエチュードも様々こなします。ただし我々が行っているエチュードというのは、キャラクターを確定し、出来事を確定して、それにのっとってやるエチュードです。なんでもいいからそこでやりなさい、とか、とりあえずやってみて、というエチュードとは違います。簡単そうにみえて、これは慣れないとなかなかスムーズにはいきません。このエピソードに出てくれた梅田さんは高校時代演劇部でエチュード三昧の生活をしていたらしく、すぐに内容を把握してくれ、的確なエチュードに没入してくれました。実際は30分近いエチュードを元に私が全面的に手を入れて台本化したものです。エチュードで作ったものはドラマ的に弱くなります。ドラマを見せるのなら、構成をきちんと立てて私が一人で書いた方がいいのです。でも、エチュードをわざわざ使うのは、二人の間の生々しい空気を表現できるからなのです。最終的には台本にしますが、元は自分から出た「言葉」なのですから、いくらでも「生っぽく」なるはずなのです。そういった場合、作劇する側の私は、見終わった時にどういった『観劇後感』になるのか、ということを想定し、整理、構成していくようにしています。

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